『アンソロジーしずおか 戦国の城』と、歴史好きの読書体験を増幅する『桃山―天下人の100年』展。
10月15日(木)発売のPen最新号は本特集「人生に必要なのは、心に響く本。」。秋の夜長にじっくり向き合えるさまざまな書籍を取り上げているので、ぜひ手に取っていただきたいと思う。その番外編として紹介したいのが、今年9月に発売された『アンソロジーしずおか 戦国の城』。戦国時代の、静岡県を構成する旧国3カ国(駿河、遠江、伊豆)の10の城を舞台に、気鋭の作家10人が短編を書き下ろしたアンソロジーだ。
戦国時代の静岡県というと、今川、武田、北条、徳川といった当時有数の勢力が割拠したにもかかわらず、全国的には少々影の薄い存在のように思う。武田といえば甲斐、北条といえば相模、徳川といえば三河。そんな印象が強く、駿河~遠江を本拠にした今川は「負けた側」だからだろうか。特に私が生まれ育った沼津は駿河の東端で、歴史小説や歴史書の舞台となることは稀。他地域の人をうらやましく思ったことは数え切れない。
個人的にそんな思いがある静岡の、よく知る地名や見慣れた風景を舞台に、今川や徳川や豊臣の有名武将たちが大挙登場して躍動する10の物語。静岡県人にとってはたまらない作品になっている(他県の方ももちろん楽しめる)。各編の最後には、韮山城や山中城、高天神城や今川館など舞台となる城の紹介があり、訪れてみたくなること請け合いだ。
もうひとつ紹介したいのが、歴史好きの読書体験を増幅してくれる『特別展 桃山−天下人の100年』。10月6日から東京・上野の東京国立博物館で開催されている。織田信長と豊臣秀吉が権勢を誇った安土桃山時代と、徳川家康が君臨した江戸時代初期の、甲冑や刀剣、絵画や工芸品、茶道具や衣装、約230件が集結。名品群を鑑賞するとゆかりのある書物が読みたくなるし、物語に登場した実物を前にすれば心が躍る。
たとえば、織田信長から上杉謙信に贈られた『洛中洛外図屛風(上杉家本)』。狩野永徳筆とされる屏風は、原田マハの『風神雷神』では作者の縦横無尽な想像力の産物として登場する。あるいは、秀吉が早逝した子・鶴松を弔うために建立した祥雲寺(現在の智積院)の襖絵『楓図壁貼付』。これは安部龍太郎の『等伯』で、長谷川等伯が苦心の末に完成させた様子が描かれている。家康を実父に、秀吉を義父にもち、数奇な運命をたどった結城秀康が用いた『刀 無銘 伝元重・朱漆打刀』の前に立ったら、志木沢郁の『結城秀康』や梓澤要の『越前宰相 秀康』が読みたくなるかもしれない。
他にも、「赤備え」で知られる井伊直政や三日月型の兜で知られる伊達政宗ゆかりの甲冑。後陽成天皇が秀吉に対して朝鮮出兵を諌めた手紙、その秀吉が妻おね(ねね)に宛てた手紙などなど、歴史の証拠になるものから人柄がうかがえるプライベートなものまで。伝説的な人物や事象が確かに実在したのだという感慨で、胸がいっぱいになる。
展示品のどれもが、400年以上前のものとは思えないほど状態がいいことにも驚く。当時の貴人向けということで最高峰の技術と素材が注ぎ込まれ、その後に家宝や寺宝として大切にされ、近年も手厚く保管・修復がなされてきたからだろう。質量ともに圧倒的な展覧会、歴史好きの方にはぜひ訪れていただきたい。(編集NS)
『特別展 桃山―天下人の100年』
開催期間:2020年10月6日(火)~11月29日(日) ※期間中展示替えあり。前期展示:10月6日(火)~11月1日(日)、後期展示:11月3日(火・祝)~11月29日(日)
開催場所:東京国立博物館 平成館
東京都台東区上野公園13-9
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:9時30分~18時(金曜・土曜は21時まで)
休館日:月(ただし11/23は開館)、11/24
入場料:一般¥2,400(税込)
※事前予約制のため、オンラインでの日時指定券の予約が必要です。
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/momoyama2020/